サービス自慢の痔
輝かしい業績に彩られた神話の数々だけなら、後世の過酷なB・ウォーズにおいて何の意味も持たず、せいぜい社内記念館に過去を刻まれるのみで競争の激しい製造の分野でも、すぐれたコミュニケーションと素早い解決は同じように必要である。
工場内の装置が正しく作動しなければ、ラインは止まってしまう。
(中略)だから当然のことのように、Hの製造工場の運転休止時間は、分や時間ではなく秒単位で計られる。
(中略)レースのトラックでHが学ぶ教訓は、工場内で生かされる。
(「H・ウェイ」)重要なことは、創業者を神格化させることによって、その精神を風化させてしまうか、その精神を生き生きと日常の企業活動の糧として使い続けるかである。
神話企業がときとして普通の会社よりも脆弱になるのは、社内に不敗神話が充満するからである。
時代の変化が目に入らず、ただ創業者の神話性に依存し求心力の拠りどころとして、創業者の残した手法や思想を聖域化し、経営活動を硬直化させるからである。
象徴的な光景は、創業者の銅像やその類のものが飾り立てられている有様であろう。
I氏には、手形足形がかたどられたモニュメントがSの中央研究所ロビーに飾られ、本社近くにある通称「I会館」の中には胸像もある。
M氏にも銅像はある。
それは実家の造り酒屋の記念館の中に置かれている。
M家にとって、A氏の存在がいかに誇らしいものであるかを、それは如実に物語っている。
しかし、HS氏には、そのような類のものは一切見られない。
H氏は、創業者を神格化することが会社の寿命を縮めることになると考えていた。
しかし、銅像問題にはS氏の気質が大きく左右している。
S氏自身がこう言っている。
14、5年前だったか、従業員がみんなで俺の銅像をつくってくれるって話があったんだよ。
たのむ、かんべんしてくれ、俺は写真飾るのも嫌いなんだ。
俺が死んでも銅像だけはつくらないでくれといったよ。
(「HSは語る」)もともと偽悪的な表現が好きな性分であったが、自分が実態以上に誉めそやされるのはたまらなかったであろう。
このために、H氏はS氏に「教祖」という名を進呈しただけで余分な配慮をする必要はなかったのである。
稀代の創業者、HS氏は、鬼籍に入った今も、その人間臭い人柄が語り継がれこそすれ神格化される兆しがない。
しかし、逆に、それだからこそ、その開発精神は、今日も強くH技術陣の支柱となり続け、Hのアイデンティティの核となり続けている。
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